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福岡家庭裁判所 昭和39年(少イ)5号 判決

被告人 鈴木秀春

主文

被告人を罰金三千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となる事実)

被告人は、福岡市東中洲千日前二一〇番地において、パチンコ店「大洋ゲームセンター」を経営しているものであるが、昭和三七年六月二六日頃から、同年九月二五日頃までの間、同パチンコ店に一八歳に満たない年少者○崎○子(昭和二三年三月二八日生)を雇い入れ労働者として使用するにあたり、同女についてその年齢を証明する戸籍証明書を、その事業場に備えつけなかつたものである。

(証拠の標目)

一、○崎○子、木下フジ子、及び川良長久の司法警察員に対する各供述調書。

一、被告人の司法警察員、検察官に対する各供述調書、及び当公廷における供述。

(法令の適用)

労働基準法第五七条第一項、第一二〇条第一号、刑法第一八条

(児童福祉法違反、及び労働基準法第五六条第一項違反の各訴因についての判断)

一、児童福祉法違反の本位的訴因について、

○崎○子(昭和二三年三月二八日生)を雇い入れ、昭和三七年六月二六日以降同年九月二五日頃までの間、住込店員としてパチンコ玉を積むなどの業務に従事せしめたことが、児童福祉法第三四条第一項第九号にいわゆる「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置いた」行為に該当するというのである。しかしパチンコ店における前示業務が、客観的に児童の心身に有害な影響を与えるものとはみられないばかりでなく、労働基準法第六三条第二項、女子年少者労働基準規則第八条第四五号(特殊遊興的接客業における業務)に関し示されている昭和二二年一一月一一日労働省婦人局発第二号通牒にいう「カフェー、バー、ダンスホール及びこれに準ずる場所」とは風俗営業全般を対象とするものではなく、風俗営業取締法第一条第七号所定の「まあじやん屋、ぱちんこ屋、その他設備を設けて客に射幸心をそそる虞のある遊技をさせる営業」までは包含しない趣旨であるとする昭和二四年六月七日附の労働基準局の回答もあつて、被告人の当公判廷における供述及び証人井出数男、同野本融の各供述によれば福岡市内におけるパチンコ業者は、満一五歳以上一八歳未満の児童についてその雇い入れを禁止されたこともなく、斯様な児童雇い入れの際は、労働基準法第五七条第一項所定の戸籍証明書を事業場に備え付けるよう労働基準監督署から指導され、今日に及んでいることを、認めることができる。

従つてパチンコ店における玉積みなどの業務に従事させるため、住込店員として雇い入れた本件雇傭契約は、もとより適法なものといわねばならず、「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる」場合にあたらないことが明らかであるから児童福祉法第三四条第一項第九号第六〇条第二項による本位的訴因の事実は罪とならないものといわねばならない。

二、労働基準法第五六条第一項違反の予備的訴因について。

被告人は昭和三七年六月二六日頃○崎○子(昭和二三年三月二八日生)をパチンコ台の玉積などに従事する住込店員として雇い入れたもので、右雇い入れ当時一五歳未満の児童であつたことは、被告人の当公廷における供述及び○崎○子の戸籍謄本の記載によつて明らかである。

しかし前示第五六条違反の罪に関しては、児童福祉法第六〇条第三項の如き特別規定がないので、一五歳未満の児童であることについての認識、もしくは未必の認識を要するものと解されるところ、被告人が前示○崎○子を雇い入れるに際しては前示○子本人が年齢をいつわり昭和二二年三月生と称し、又同女はその伯母(実母ユワコの妹)○中△子に同伴されて被告人方営業所を訪れて雇傭方を要請したものであるのみならず被告人方に勤務していた木村アキヨ(前示○中△子の従姉妹にあたる)も前示○子の年齢について間違いはない旨保証し戸籍証明書は後日郵送するとのことであつたので、満一五歳を超えているものと信じて、同女を雇い入れたことが窺われ、同女が一五歳未満である点に関しては、未必の故意もなかつたことが認められる。

このことは、前示○崎○子、木下フジ子、川良長久、○中△子の各司法警察員に対する供述調書、○中△子及び被告人の検察官に対する各供述調書、被告人の当公廷における供述を綜合して肯認し得るところで、検察官の提出援用している証拠によつても、これを覆すに足らない。

従つて本件労働基準法第五六条第一項違反の予備的訴因に関しても、犯意を欠き罪とならないものといわねばならない。

以上のとおり前掲二訴因に関しては罪とならないが、労働基準法第五七条第一項違反の予備的訴因については、犯罪の証明ありとして、該当法条適用の上主文のとおり判決する。

検察官 秋山勝太関与

(裁判官 厚地政信)

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